映画やドラマ制作の現場では、俳優同士の親密なシーンやデリケートな場面がしばしば登場します。
こうした場面を安全かつプロフェッショナルに撮影するために、近年導入され始めたのがインティマシーコーディネーターという役職です。
では、具体的に彼らは何をする人なのか、そしてその重要性について詳しく見ていきましょう。
インティマシーコーディネーター(IC)とは?

定義と役割
インティマシーコーディネーター(IC)は、映画、テレビ、舞台などのエンターテイメント業界で、俳優が親密なシーン(キスシーン、ラブシーンなど)を安全かつ快適に演じられるようサポートする専門職です。
海外におけるインティマシーコーディネーターの発展
インティマシーコーディネーターの役割は、映画やテレビ、舞台での親密なシーンの安全性と倫理性を確保するために発展しました。
この役割は、特にMe Too運動が注目を集めた2017年以降、急速に重要性を増しています。
業界内でのハラスメントや不適切な行動への対策として、この専門職の必要性が認識されるようになりました。
アメリカ
アメリカでは、SAG-AFTRAがインティマシーコーディネーターのためのガイドラインを策定し、正式な職業としての位置づけを強化しています。
主要なテレビネットワークや映画スタジオは、親密なシーンを含む作品でのICの採用を推奨しています。
HBOは、全ての作品でICを採用することを義務付けた最初のスタジオの一つです。
イギリス
イギリスでも、インティマシーコーディネーターの需要が高まっています。
英国の業界団体であるBAFTA(英国映画テレビ芸術アカデミー)は、ICの重要性を認識し、関連するガイドラインを発表しています。
また、ITVやBBCなどの主要な放送局もICを採用するようになっています。
カナダ
カナダでは、Canadian Actors’ Equity Associationがインティマシーコーディネーターに関するポリシーを策定し、舞台やスクリーンでの安全性を高めるための措置を講じています。
カナダの映画やテレビ制作においても、ICの需要が高まっています。
日本でインティマシーコーディネーターが認知された理由とは?
日本でも、インティマシーコーディネーターの重要性が徐々に認識され始めています。
特に、2022年のユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされたことや、女優の奈緒さんがインティマシーコーディネーターの存在を公に語ったことが、その認知を広げる大きなきっかけとなりました。
日本のエンターテインメント業界でも、安全で快適な撮影環境の提供が求められています。
インティマシーコーディネーターの業務内容

インティマシーコーディネーターの具体的な仕事内容には以下のようなものがあります。
- シーンの演出
- 同意の確認
- リハーサルのサポート
- 安全対策の策定
- 撮影時の調整
シーンの演出
親密なシーンの演出をサポートし、俳優が安心して演じられるようにする。
同意の確認
俳優の同意を確認し、演技の範囲や境界を明確にする。
リハーサルのサポート
親密なシーンのリハーサルを監督し、実際の撮影に備える。
安全対策の策定
撮影中の安全を確保するための対策を講じる。
撮影時の調整
撮影現場でのトラブルシューティングや調整を行う
海外と日本での導入事例

海外での導入事例
海外では、HBOやNetflixなどの大手制作会社が積極的にICを導入しています。
例えば、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』や『ビッグ・リトル・ライズ』では、ICが親密なシーンの撮影において重要な役割を果たしました。
これにより、俳優の安心感が高まり、作品のクオリティ向上にも寄与しています。
日本での導入事例
日本でも、少しずつインティマシーコーディネーターの導入が進んでいます。
特に、近年のドラマや映画制作において、インティマシーコーディネーターの存在が俳優の安心感を高め、作品の質向上に寄与していることが報告されています。
例として、Netflixによる『彼女(原作:羣青/中村珍)』やテレビドラマの『大奥』などで導入されました。
日本人インティマシーコーディネーター
現時点で日本で活躍するインティマシーコーディネーターはごく少数で、資格を持っているICは浅田智穂さんと西山ももこさんの二人のみです。
逆に言うと、インティマシーコーディネーターは新たに目指しやすく、チャンスの多い職種だと言えます。
インティマシーコーディネーターになる方法と必要な資格

資格は必要?
日本でインティマシーコーディネーターになるためには、正式な資格が必須というわけではありませんが、関連するトレーニングや認定プログラムを受けることが推奨されています。
資格と取得方法
インティマシーコーディネーターになるためには、IPA(Intimacy Professionals Association)の資格取得が推奨されています。
IPAは、インティマシーコーディネーターのトレーニングプログラムを提供し、倫理的かつ安全なICの基準を設定しています。
資格取得後は、実際の現場での経験を積むことでスキルを磨いていきます。

インティマシーコーディネーターの年収は?

海外のインティマシーコーディネーターの年収は?
インティマシーコーディネーターの年収は、地域や経験、プロジェクトの規模によりますが、海外では一般的に年間50,000〜100,000ドルとされています。
日本でも需要の高まりに伴い、安定した収入が期待できる職業となりつつあります。
ICの報酬は、撮影日数やシーンの複雑さに応じて決まります。
まとめ
インティマシーコーディネーターは、映画やテレビ、舞台における親密なシーンの撮影において欠かせない存在です。
俳優の安全と尊厳を守るために、その役割はますます重要性を増しています。
資格取得や専門的なトレーニングを通じて、ICとしてのキャリアを築くことが可能です。
日本でもその需要と認知が広がりつつあり、今後さらに多くのプロジェクトで活躍が期待されます。